ここ数年、ワインツーリズムや日本酒の酒蔵巡りなど、旅のテーマとして「お酒」が注目されています。そんな中、日本一の「梅」の産地、和歌山県の田辺市では、当地の「梅酒」をより多くの人に知ってもらい、田辺を旅の目的地にしてもらおうと「紀州田辺の梅酒旅」を企画してきました。
その企画の皮切りとなるイベントが「梅酒フェス’23 in 紀州田辺」です。琥珀色の梅酒の周囲にたくさんの笑顔があふれた同イベント、その1日に密着しました。

梅酒ツーリズムの幕開け

「梅酒フェス’23 in 紀州田辺」が開催されたのは2023年11月18日。晩秋の土曜日、会場のJR紀伊田辺駅前「弁慶広場」には冷たい強風が吹き、時々小雨もパラついた。関係者は空を見上げ心配顔。しかし結果的にイベントは終始アットホームなムードでおおいに賑わい、大成功に終わった。

和歌山県田辺市と梅酒ツーリズム事業実行委員会が、官民一体となってとりくむ梅酒ツーリズム。朝日放送グループホールディングス株式会社も、梅酒ツーリズム事業実行委員会の一員として参画している。なかでも「梅酒フェス’23 in 紀州田辺」が今年開催される運びとなったのは、ここ数年が田辺市にとって観光ゴールデンイヤーであることによる。

2013年(平成25年)に「田辺市紀州梅酒による乾杯及び梅干しの普及に関する条例」(通称:梅酒で乾杯条例)が制定されてから今年が10周年であること、また2025年の大阪関西万博で関西地方に多くの旅行客が訪れることなどから、「梅酒好きなら一度は行ってみたい観光地」を目指し、3年間かけて様々な企画を開催。梅林や海辺などに、田辺ならではの景観と梅酒を味わえる絶景の「梅酒テラス」の設置、飲食店によるクラフト梅酒の提供を軸にした「梅酒飲み歩き促進」などの施策を行うことが決まっている。

目玉企画「紀州梅酒100種飲み比べ」

それらの企画の先頭を切って行われた「梅酒フェス’23 in 紀州田辺」。記念すべき同イベントの目玉企画の一つは、「紀州梅酒100種飲み比べ」。会場のテーブルには、琥珀色の梅酒ボトルがずらり並び、その数なんと100種というから驚きだ。田辺市産を中心に厳選された和歌山の梅酒100種を好きなだけ、30分間1,000円で飲み比べできるという、梅酒好きにはたまらない企画である。

参加者は、梅本来の味わいのオーソドックスなものから、日本酒やブランデーをベースにしたもの、バナナやマンゴー、香草などのフレーバーのあるものまで、用意された100種100様の梅酒を楽しんだ。30分の時間制限内では30種前後を味わう人が多かったが、2周して100種コンプリートした強者も。

市内から訪れた20代カップルは「こんなに飲み比べできる機会はない」と参加。2人は気に入った梅酒を購入しようと道向かいの「tanabe en+(タナベエンプラス)」に向かった。同じく梅の産地である隣のみなべ町から訪れた宿泊業を営む50代夫婦は、青いダイヤとも呼ばれる「古城(ごじろ)梅」のビターな味わいを絶賛。「梅酒は毎年自分で作るが、商品化されているものもそれぞれ美味しい」「熊野古道を歩く外国の方にもどんどん飲んでもらいたい」と、インバウンド層への浸透に期待を寄せた。

完全正解率28%…「利き梅酒」に挑戦!

同時間帯で「tanabe en+(タナベエンプラス)」では、少量の梅酒を飲み比べ「利き梅酒」をして、味わいの違いから「本格度」「梅酒の熟成度」「梅の完熟度」の高い方を当てるゲーム「格付けチェック」が無料で行われた。3問すべての完全正解率は約28%とイージーとは言えない難易度。しかし、3人目の全問正解者となった大阪から来た20代女性は「梅酒が大好きなので簡単だった」とにっこり。記念品のオリジナルグラスを嬉しそうに持ち帰った。いっぽう、市内から参加した20代男性は1問を外し「味が違うのはわかるが、度合いとなると難しい」とうらめし気な表情を見せた。

また、JR田辺駅前のほか、熊野本宮大社、龍神市民センター、道の駅熊野古道中辺路、道の駅ふるさとセンター大塔の市内4か所で梅酒・梅ジュースの無料ふるまいを実施。多くの人がしばし足を止め、ジューシーな田辺の梅を堪能した。

ステージでは市長を囲んで乾杯宣言

弁慶像前に設置されたステージでは、田辺市の高校を卒業した朝日放送テレビの桂紗綾アナウンサーの司会で、ステージイベントが行われた。田辺市の真砂充敏市長は「コロナ禍が落ち着いた今が田辺の梅産業振興スタートの時、飲食店や観光の盛り上がりにも期待したい」と挨拶。新たに飲食店街に設置する予定の「梅酒で乾杯条例立札」の除幕が行われた。

続いて、中田食品株式会社提供の梅酒の樽で鏡開きを行い、梅酒ツーリズム事業実行委員会委員長の田上雅人氏の音頭で乾杯宣言。

DJブースからの音楽に乗せて、ボトルやグラスを手品のように華麗に操る「フレアバーテンディング」のショーは、写真を撮る人が続出。その後はステージ上でも「利き梅酒」での「格付けチェック」が行われ、田辺市の新20歳代表の女性や、フレアバーテンダーの2人、中田副実行委員長らが出場。特にお酒を生業とするプロ陣営は「間違うわけにはいかない」と必死の形相を見せ、その様子に会場はおおいに盛り上がりを見せた。

今後にむけて、関係者からメッセージ

中田副実行委員長はイベントを振り返り「やはり梅酒にはパワーがある。日本を含む世界の旅人に味わってもらい、紀南地方の梅産業の柱として育てていきたい」と意気込んだ。「初春には梅林に梅テラスを設け、梅香る絶景のなか梅酒を楽しんでもらえる。たくさんの人に来てもらいたい」と話す。

田上氏は「田辺から熊野古道を目指すのは欧米の旅行客が多いので、ヨーロッパ好みの甘さ控えめのものを前面に押し出すのも一案。同時に輸出にも力を入れ、梅酒を地域力強化の起爆剤にしたい」と力を込める。

今回のイベントを担当する田辺市観光振興課の佐向大輝さんは「田辺の梅酒の特徴のひとつは、完熟梅を漬けたものが多いこと。完熟梅は風味豊かだが、やわらかく輸送に向かないので、産地でしか扱えない。梅酒テラスはじめ、飲食店でのクラフト梅酒飲み歩きなど、旅行客がいつ来ても田辺のおいしい梅酒を楽しんでもらえるようコンテンツを用意したい」と締めくくった。

飲んで嬉しい飲み比べやクイズをはじめ、見て楽しいカクテルショー、市長や新20歳も参加してのめでたい鏡割りまで、様々な切り口から梅酒の魅力にアプローチした「梅酒フェス’23 in 紀州田辺」は、たくさんの笑顔を生み出して終了しました。同イベントの勢いのままに、飲食店の飲み歩きや梅林の「梅酒テラス」など、楽しい企画がどんどん始まります。これから加速度的に、田辺市の「梅酒ツーリズム」は盛り上がりを見せていくでしょう。あなたもお気に入りの「梅香る1杯」を探しに、田辺市に出かけてみませんか。