ローカル系冊子「伊丹人」が切り取った歴史資源
新たな魅力として市民に浸透
兵庫・伊丹市の「歴史資源を活用し、市民とともにまちづくりにつなげたい」との思いから生まれた、ローカル系冊子「伊丹人」。地元の老舗企業がこれを活用し、“伊丹らしさ”を伝えるイベントを開催しました。歴史カテゴリーでナンバーワン雑誌である「歴史人」の編集部が掘り起こしたまちの魅力は、市民へと広がり、シビックプライドの醸成に一役買っています。
<「伊丹市の取り組み(1)」の記事はコチラから>
<「伊丹市の取り組み(2)」の記事はコチラから>
まちの魅力を伝える公開講座 「伊丹人」も一役
2022年7月23日、伊丹にある複合施設「白雪ブルワリービレッジ長寿蔵」の、お酒造りの工程や道具を展示したミュージアムにて、イベント「伊丹酒講座“たしなみ” 」が開催された。
会場で全員に配布されたのは、伊丹の歴史を紹介した冊子「伊丹人」。市より「まちの歴史資源を活用したい」と依頼を受け、歴史カテゴリーで売り上げナンバーワンの月刊誌「歴史人」の制作チームが、そのノウハウを活かしてオリジナルに制作したものだ。
この公開講座イベントを開いたのは「小西酒造」。銘酒「白雪」で知られる老舗の酒蔵だ。
15代目であり代表取締役社長の小西新右衛門さん(70)は、「伊丹人」をきっかけに、今回の公開講座を企画したと話す。
「『長寿蔵』がオープンしたのは1995年で、今年で27年目を迎えました。過去には伊丹のお酒や歴史などについてここから発信し、『伊丹歴史探訪』という書籍も出版させていただきましたが、ここ10年ほどは展開できていなかったんです。私は、お酒を製造・販売するだけではなく、みなさんに伊丹のことをもっと知っていただきたいと思っています。『長寿蔵』を再び『小西酒造』の発信基地にしようと今回のイベントを開催することになり、そのスタートに相応しい資料が『伊丹人』でした」(小西さん)
講座では、大手前大学副学長の川口宏海さん(67)が壇上に上がり、伊丹郷町(ごうちょう)と酒造業の成り立ちなどについて講演。
「伊丹は、江戸時代の前期・中期に有名な酒どころになりました。当時のお酒は、ほとんどが江戸向け。江戸時代中期の江戸の人口は約100万人で、実は当時のロンドンやパリより多いんです。そこに目をつけたのが伊丹。 江戸で造られるお酒は技術が発達していなくて、それほど美味しくなかったようです。一方で、伊丹のお酒は味がよく、どんどん売れました。江戸で一番の評判だったそうです」
参加者も、配布された「伊丹人」を読みながら、理解を深めていった。ひとりは、「『伊丹人』を読んで伊丹の知らなかった歴史や文化的な一面を知り、新鮮に感じました。伊丹の歴史をもっと深く知りたくなりました」と話した。
<「伊丹人」のデータはコチラから(伊丹市のHPにジャンプします)>
酒造会社のイベントらしく、最後には酒が振る舞われた。 特別に用意された「江戸元禄の酒 原酒」は、江戸時代の酒造りを記録した書物から復元されたもの。「普段飲むお酒と味わいが違う」と、驚きの声があがった。
「歴史のおもしろさでシビックプライドを育みたい」
およそ40人が参加し、盛況に終わった「伊丹酒講座 “たしなみ”」。
小西さんが企画したのは、地元愛やシビックプライド(まちに対する市民の誇り)を育みたいとの狙いからだった。
「伊丹は今も人口が増えている、全国でも数少ないまちなんです(※)。自衛隊駐屯地などによって、外からたくさん人が入ってきています。つまり、伊丹のことをご存知ない方がたくさん住んでいらっしゃるということです。ですから、まずは伊丹に住んでいる方に『伊丹は、空港があるだけのまちではない。こんなにいいまちなんですよ』と情報をお届けしたいです。伊丹の歴史におもしろさを感じていただけると、それが地元愛やシビックプライドにつながるのではないかと考えています」
11月には第2回の公開講座を予定しているほか、小西さんの頭の中には別の構想も浮かんでいるという。まちの歴史をさらに掘り起こし、伊丹人の“続編”を制作するアイデアだ。
「自戒の念もこめて、歴史や伝統はお金では買えないものだと思っています。伊丹の原点をまとめていただいた『伊丹人』を、今後もまちづくりに活用していきたいです」
伊丹市がまちづくりに活用しようとスタートした歴史資源の掘り起こし。
そのバトンを地元名士が引き継ぎ、まちづくりやシビックプライドの醸成へと繋げようとしている。
※年によって増減があります。およそ19万6900人(2015年)、およそ19万7700人(2021年)。伊丹市HPより。
執筆・撮影:小久保よしの
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